泥だらけにならない、腰も痛くならない。農業のイメージ、変わるかも
「農業って、大変そう」
「そもそも知識がない」
――そんな理由で縁遠く感じていた人に朗報だ。糸島市二丈上深江に、まったく新しいスタイルのシェア農園が生まれようとしている。

「菌ちゃん農法」って何?
このシェア農園で採用しているのが、「菌ちゃん農法」と呼ばれる農法だ。農薬も化学肥料も使わず、土の中の菌(微生物)の力だけで野菜を育てる。
中でも重要なのが、「糸状菌」と呼ばれる菌の存在。竹や木の枝など身近な自然素材を土に入れることで、菌類が団粒構造の土壌に変え、土そのものが豊かになっていく。

「農薬も化学肥料も、今やほぼ全量を輸入に頼っています。世界情勢が不安定ななか、価格も2割程上がっている。菌ちゃん農法なら、そもそもそうした心配がいりません」と、菌ちゃん農法の普及に取り組む豊岡賢臣さんは話す。

水やりは基本不要、雨水だけでも育つ
菌ちゃん農法のもう一つの特徴が、基本的に水やりがいらないこと。通常は雨水だけで野菜が育ち、乾燥が続く時期にのみ水やりを行う。
それを可能にしているのが、高床式の畑と菌の力だ。木枠で作られた畑は地面から高さがあり、「根を伸ばして水に届かせよう」と、野菜が自ら根を深く張ろうとする。
通常の畑では横に広がりやすい根も、ここでは真下へどんどん伸び、さらに横へも広がっていく。根を深く広く張るほど、多くの栄養を吸収できるからだ。
「野菜が大きく育つかどうかは、どれだけ根を伸ばせるかにかかっています」と豊岡さん。あとは葉が光合成でエネルギーをつくる。野菜たちが、自らの生きる力を存分に発揮して育っていく。

畑を休ませなくていい
一般的な農業では、収穫後に畑を休ませる期間が必要とされる。しかし菌ちゃん農法では、それがいらない。
むしろ植物が育っているほうが菌が活性化するため、収穫後も根を抜かずに根元で切り、空いたスペースに次の苗をどんどん植えていける。年がら年中、途切れることなく野菜が育てられるのだ。
「苗か種を買ってきてここに植えるだけ。特別な知識はいりません」と豊岡さん。困ったときには相談にも乗ってくれる。
腰も膝も楽ちん、子どもと一緒に
木枠で作られた「高床式」の畑は、立ったままの姿勢や腰かけながらも作業ができる。子どもにとってはちょうど目線の高さになるので、野菜の観察もしやすく、収穫も楽に楽しめる。
地面にはもみ殻を敷き詰めてあり、泥だらけになることもないので、お気に入りのスニーカーで来てもOKだ。

洗わずそのままかじれる野菜
この農法で育てた野菜の最大の魅力は、なんといってもその味と安全性。農薬を使っていないから、収穫したその場で洗わず食べられる。
取材時、畑にはレタス、ブロッコリー、トマト、ナスなど、色とりどりの野菜が7〜8種類、元気に育っていた。
「味が全然違いますよ」と豊岡さん。微生物豊かな土で育つことで、糖度や旨味、香りが高まり、栄養価も高くなるという。
畑で使う素材は、もみ殻や木枝、木材チップなど、ほぼすべてが身近にある自然のもの。使い終わった木枠も、最終的には土に還せる。「ここには無駄なものが何ひとつないんですよ」という言葉が印象的だった。
糸島の土から、食卓へ
同じ敷地では、老舗洋菓子店を長年支えてきた納富輝子さんが、国産バニラの栽培にも挑んでいる。
国産バニラへの挑戦と、菌ちゃん農法のシェア農園。どちらも「自分たちの食を、自分たちの手で」という思いが根っこにある。
2026年春。同じ土の上で、二つの夢が動き出している。


