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無農薬の酒米作りが田んぼと人をつなぐ

糸島産の無農薬酒米「山田錦」を使った日本酒「大地」をご存じでしょうか。

長糸にある新三郎商店で手に取り、こだわって作ってるんだなぁとおいしくいただいていましたが、その田んぼが同じ校区と聞いて俄然興味津々。
しかも、田植えや草取りといった酒米の生産現場に、酒造会社のスタッフや販売店のスタッフが手伝いに行っているとか。

その魅力の原点である米農家さんを取材しました。

糸島新聞2022年9月30日号

古川家は伊津雄さんの父親の代に農業を始め、一時は糸島郡内一の生産量で表彰されたこともあったという大規模農家。それだけの田んぼを引き継いだ伊津雄さんが取り組んだのは、手間のかかる無農薬栽培でした。

「大変だから、薬を撒く作業をやりたくなかっただけよ」と軽くおっしゃっていましたが…そこには並々ならぬ労力や工夫があったのだろうなぁと推察。

無農薬の食用米ヒノヒカリの田んぼ。大事な時に雨が降らなかったからヒエが今年は多いそう。

そんな伊津雄さんに無農薬での酒米作りの声がかかったのは、30年前。
JAの無農薬部会に所属していた伊津雄さんに、無農薬のお米で作ったお酒を売りたいという小売店の声を受けてJAが白羽の矢を立てました。しょんなかと引き受け山田錦の栽培を始めました。

醸造は久留米の旭菊酒造。こうして、糸島産山田錦を原料にした日本酒「大地」が生まれました。

今や全国にファンを持ち、コロナ前は、年末には「大地を楽しむ『大地会』」が博多で毎年開催され、生産者、販売者、常連さんなど、全国各地から30~40人が集まり盛り上がっていたそうな。

大地に関わる人々が田んぼに集うようになったのは、旭菊酒造の専務の声かけから。
「自分たちの作るお酒の原料である酒米の生産現場を知りたい」。
小売店のスタッフも、「売る時に気持ちがいい。自信を持って勧められる」と共に汗するようになり、「大地が大好きだから」と愛飲家も集うようになったそうです。

大地のアツい裏ラベル。

後継者不足に悩む日本の農業界ですが、古川家の長男拓実さんは、両親の米作りを学びながら、他の場所に自分で畑も借りて、友人や知り合いを巻き込みながら農と向き合う日々を送っています。

祖父や父が作ったお米を食べて育った拓実さんは、「給食を残したことはなく、子ども心に、給食を残す友人たちの姿が信じられなかった」と語ります。

遊びたい盛りに田んぼ手伝いをしなくてはいけない時もあり、小学校までは農家がいやだったそう。
しかし、中学になって、遊びに来た友人が田んぼの作業をした時、「楽しかった!また来させて」と喜ぶ姿に、農業の現場は普通は見ることが出来ない、自分にとって当たり前の風景は貴重なものなんだ、と気づき、農家に生まれてよかったなぁという思いが生まれたそうです。

拓実さんが窓口となり、若き杜氏から愛飲家、農に興味のある知り合いが田んぼを次々と訪れる。

取材当日には、拓実さんの縁で田んぼ仕事を手伝わせてとふらりとやってきた樋口さんにも運よく遭遇。
「ここで作業すると2,3日エネルギーが充電されるの」とにっこり笑う樋口さん。
鎌を片手に半袖という軽装のまま、まだ水の引いていない田んぼの泥の中にずぶずぶーと裸足で入り「足が抜けなーい」、「この草は取らなくていいの?」など言いながら、機嫌よく作業にいそしんでいました。

背が高く頭の重たい酒米は一般の米より育てるのが難しい。

コロナで飲食店の消費が減り、伊津雄さんも酒米の生産を3割カットしました。
また、近年の後継者不足で上深江もこの30年で農業者が3分の1に。

色づく直前の穂が風にざらんざらんと揺れる田んぼを前に、
「日本の顔であるお米と日本酒。どちらも低迷するけれど、一人一人が少し意識を変え、一食分のパンをご飯に変えたら、農業は成り立ち、後継者が農業に魅力を感じ、この風景を残していけるんだけどね」と伊津雄さんは教えてくれました。

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この記事を書いた人

名刺の肩書は「酒まんじゅう製作/ライター」。