令和2年7月7日。
九州に大災害をもたらした大雨が糸島市にも降り、川の一部氾濫や土手の崩れを引き起こした。
糸島市浦志の糸島医師会病院付近は雷山川の支流や用水路が溢れ、道路や田畑に水が流れ込んだ。ちょうど大雨と大潮の満潮の時間に重なり、満ちた海水が雷山川の排水を阻み、川は膨らむように水位が上がっていた。
近辺はもともと土地が低く、これまでにも田畑だけでなく住宅や店舗が浸水することがあったと聞いたことがある。
水没した田んぼを見ながら
「この水、自然に引くのを待つだけなんやろか」
と思っていたら、医師会病院の隣のある施設が開いていた。
「県営湛水防除事業前原地区浦志排水機場」
けんえい…「湛水」え?は?なんて読むん??
普段見慣れない「湛水」という漢字。
ググってみたところ「たんすい」と読む。意味は「水をたたえること」。
難しい漢字使ってるけど、なんか、ここにはこの地域の水害被害を防ぐ何かがありそうな気がする!
しかし「県営」の割には、施設内に止まっているのは田舎でよく目にする軽トラだ。
県の職員はいないのか?誰が動かしているのか?中には何があるんだ??
好奇心が抑えられず、そそそっと敷地内に入り、中にいた人に話を聞いてみた。
すみませ〜ん、ここは何の施設ですか?
泊地区とか浦志地区の川やら用水路の水を、雷山川に排出するポンプ施設なんよ。
さまざまな疑問が浮かぶ私に、中田さんはいろいろ説明してくれた。
この排水機場は県営なんですか?
ここは県がお金を出して作ったもの。糸島市から管理を組合が受託して行っている。組合は泊一、泊二、泊三、浦志、潤、前原地区の農家の人で作ってとるよ。
県や市の職員はいないんですか?
ここを動かしているのは組合の人。ちゅーても、ポンプの操作ができる人は限られとる。自分ともう一人。若い人にもやってほしいけど、農家は人材がおらん。おってもなかなか操作を覚えきらん(笑)
中田さん、なんでこんな機械を操作できるんですか?
前は福岡市で下水処理の仕事をしよったけんね。糸島市の下水処理場にも勤めとった。だからポンプや電源系統の操作も知っとうとよ。
じゃあ農家を始めたのは、糸島市の下水処理場を退職してからなんですね。
糸島市の下水処理場の給料は安かもん(笑)
まあ農家しようかねーちゅうて、今は米とブロッコリーば作りよるよ。
と、からからと笑いながら話す中田さん。
しかし、農家の仕事は田畑で作物を作るだけではないのだ。今回のような河川の氾濫のおそれがあれば、排水機を稼働させに来る。
田んぼが水に浸かると、苗が腐るし、タニシが苗を食べてしまう。田んぼの水が引くまでは、ここでポンプを動かしとかんと。
浸水で被害を受けるのは田んぼだけではなく、この周辺の住宅地や店舗などの町も含まれるだろう。この周辺の浸水被害を防いでいるのは、中田さんが動かす排水機のはたらきも大きいのではないかと思う。
昨日は2時間くらいポンプを動かした。今日もすでに2時間動かしとるけど、まだまだ水がたまっとる。長くなりそうやね。
ポンプ内に漂流物などのゴミがひっかかることもあるので、ポンプを稼働している間は必ず人が着いていないといけない。
排水機場のすぐそばには、雷山川の堰があり、支流と交わるところには水門がある。これらは流水量を調節するための設備で、田植えの時期に水量を調整しているのは農家の組合だ。そして、大雨や川の増水などのときにも被害が及ばないように調整をしているのも農家の組合だ。
糸島の町は一般市民が知らない間に、中田さんのような人たちに守られていることが多いのかもしれない。
ちなみに、排水機場の休憩室(ほとんど使ってない)には、ナショナルのテレビ一体型ラジオがあった。レトロ好きにはたまらないアイテムかも。